佐野洋子 100万回生きたねこ

公開日 2007年01月04日

 「100万回生きたねこ」はひとはなぜ生きるのかという根源的な問いに答える必読の絵本だ。
有限の時の中で、生まれ、生き、そして死んでゆく総ての生命あるものの生き様を分かりやすく
私たちに問いかける数少ない良書のひとつである。

 100万回生きたねことは、つまりは永遠のいのちを持つねこということである。しかし、彼の不幸は他者を愛することを知らなかったことにある。自分はOKだが、他者はNOの生き方の100万回ものいのちを生きてきたねこは真の意味において”生きた”のではなく、単に時の流れの中を“彷徨って”いたのだ。

 しろねこへの愛とその間に産まれたこねこたちへの愛を得て、初めて、○○が大きらいでしたが、○○が大好きでしたに変容し、さらには○○がじぶんより好きなくらいでしたに変化したのだ。
 しろねことこねこたちへの愛が存在し得たからこそ、100万回生きたねこは100万回目にして、初めての生を得ることができたのはなかろうか。

 愛という言葉やその概念は人間の生理や心理に大きな力をもつのだ。コヒーレンスという言葉がある。同調という物理学の専門語である。大きなエネルギーと小さなエネルギーが共存すると小さなエネルギーは大きなエネルギーに同調するというように使われる。心臓の生体電気エネルギーは脳のそれよりも1000倍以上も大きい。ゆえに、心臓と脳のエネルギー波形が同調するのである。

 愛という言葉や愛する者を考えながら呼吸を続けると、心臓の波形に同調して脳の波形が変化する。そして、このことが自律神経の安定化をもたらす。愛という言葉や概念が心拍変動や自律神経をも変化させるのだ。

 これらの神経心理学的知見がうつやさまざまな不安、とくに最近増加しつつある社会性不安障害などの心理臨床に大きな貢献ができるのではないか。

 また、受験や学習に際して、心拍一貫法—コヒーレンスの習得は、みなさんの学習効果を高める上でも非常に重要な方法なのである。自律神経が乱れたままでは、記憶することはもとより、学習そのものに取り組むことすら困難になるからである。